どこをどう逃げてきたのかは覚えていない。
気付けば、周りには沢山の木々。
逃げ切ることは出来ないと、頭の中では理解しているが、
本能が体を動かす。
遺伝子に組み込まれたプログラムなのだろう。
人の気配を感じ、林の中に足を進める。
川の流れる音がする。
闇雲に歩き続けると、つり橋を発見した。
水面までの距離は10メートルくらいだろうか、それ程高くはない。
つり橋を渡ろうとすると、橋の途中に何かいるのを見つけた。
猫のようだった。
町からはかなりの距離がある。
きっと死に場所を探して、家出した猫だろう。
橋の高さに気付き、足が竦んでしまったのかもしれない。
ぼーっと猫を見ていることに気付き、苦笑して、橋を渡り始める。
猫を尻目に、半分程渡ったところで、対岸に人影が見えた。
銃声がこだまする。
その後、遅れて、かすかな水の音。
先回りされていた、そう気付いて後ろを振り向く。
猫はいなかった。
その代わりのように、自分に拳銃を向ける人間がいた。
挟まれた。
そう思ったのと同時に、色々な情報が頭に流れる。
橋、猫、銃声、水音。
足は貧乏揺すりのように震えていたが、最後には言うことを聞いてくれた。
体が宙に浮く。
今度は、水音がはっきり聞こえた。
重くなった上着を脱ぎながら岸に上がると、
さっきまで橋の上にいた猫がぐったり寝転んでいた。
ズボンのポケットを漁って、
逃げる途中で買ったタバコの封を開ける。
ビニールに包まれてたおかげで、何本かはまだ生きていた。
口にくわえてライターのドラムを回す。
「カチッ・・・カチッ・・・」
100円で買ったライターは使い物にならなくなっていた。
後ろから砂利を踏む足音が聞こえる。
「火をくれないか」
振り向かずにそう言うと、
「カチリ・・・」
という音がした。
猫がか細い声で、にゃぁ、とないた。