no mean

「おぉ・・・」
耕太郎は米を食べ、思わず声をあげた。
ずっと求めていた味だったからだ。
「やりましたね!」
助手の一人に声をかけられ、我に返る。
周りに人がいることをすっかり忘れていた。
「ありがとう・・・君たちの助けがあったからこそ、だよ」
正直な所、喋るのが億劫だった。
今はただ、完成の感慨にふけりたかったが、
労いも責任者の仕事だろう、という常識が頭の片隅で意地を張っている。
10年も品種改良を続けて、やっと求めている稲を作ることが出来た。
『俺の米だ!』
その言葉が耕太郎の頭をぐるぐる回っていた。


助手はまだ話しかけてくる。
「ところで名前はどうしましょうか?」
「名前?・・・あぁ、そうだな。」
この米には名前が無い。
無い、といえば嘘になるが、
『サンプル627(ムジナ)』のまま世に出すわけにもいかない。
「どうしようかな・・・・・・一般公募しようか?」
「でも、耕太郎さんがずっと頑張って作った米ですし、
 耕太郎さんが決めた方がいいんじゃないですか?」
『でも』の意味はわからないが、耕太郎は内心、その返しを待っていた。
「そうか・・・それでいいのかな?」
「いいですよ、決めちゃってください」
助手達は口を揃えて、そう言う。
もちろん耕太郎は悩んでなどいなかった。
ただ、顔がにやけないようにするのに必死になっていた。


「じゃあ、俺の名前そのまま付けていいかな」
「うーん・・・問題ないんじゃないですかね」
助手達は少し難色を示したが、反対することはなかった。
名前はセールスにそれほど影響しない、
と考えているからかもしれない。
「・・・あ」
一人の助手が声をあげる。
「どうしたんだ?」
反対でもする気なのか?


続く、眠いから
たぶん、続く